【これも、コピーライターの視点_118】
<言葉を握りしめてどうなるのか>
犬が、うかがうような怯えた目つきで飼い主を見る。そのとき、犬の行動の評価基準は飼い主にあり、その犬は飼い主の価値観をトレースしたようなものになる。犬の場合それは、規律・規範の話であり、まだ許容されるものかもしれません。犬と飼い主の関係を、学校の教師と生徒に置き換えるとどうだろう? 先生をうかがうような目つきで見る生徒は、先生のなかの正解を探しているとも言える。客観的な問題、例えば1+1のような問題には正解があるが、高学年にもなれば、正解がある問いでも、そこに至る過程が求められ、そこに唯一は少ない。自分の考えたこと、つまり、正解かどうか不確かなことを発言するのに、人をうかがう姿勢や怯える姿勢は、それとかけ離れている。
企業はどうだろうか。社長と社員。社長を常にうかがう社員は、おべっかとかゴマすりのイメージをわたしは持ってしまう。社長の立場に立ってみるとどうだろう? 人から顔色をうかがわれたり、様子見されたりする自分というのは、気持ちのいいものではない。組織の依って立つ理念が希薄であったり、機能する言葉でなかったりすれば、そういうことが起きる。社員の依って立つ軸は、社長になってしまう。そのとき、社長自身の依って立つ軸はどうなるのだろうか? 想像がたやすいのは、売上などの数字である。しかし、数字をつくることに貢献する社員は、数字だけではうごきづらい。
企業経営における言葉の有用性を、わたしはあらゆる角度から、日々とらえ、その一部を切り出し、こうやって書いています。それが金余り企業のぜいたく品であるというイメージは、少しずつ減ってきてはいますが、ぬぐいきれない誤解の一つです。宣伝広告が、金余り企業のぜいたく品だというイメージから来ているのでしょうか。事実、それはあった時代があります。税金を払うくらいなら広告を打っておけ、という意味で、年度末の決算期に駆け込みで新聞やテレビの広告枠を買いあさる企業が、かつてはありました。
その時代のボリュームを超えることができない現在、当時の負のイメージを、少ないボリュームで塗り替えることは骨の折れる仕事です。コミュニケーション戦略の本質は何か。その軸を担う言葉は、どのように構築し、企業の日々の活動に展開し、社員一人ひとりの腑に落としていくのか。企業の明日に真剣で、業績を伸ばすことに熱心な経営者が、一人、また一人とCONERIの方を向いていただけていることに感謝したいと思います。社員のうかがうような目つきから、それぞれが眼差しを上げ、彼方を力強く見つめるようになったとき、その組織は、一つの成長を遂げたと言えます。その時、一人ひとりはある言葉を握りしめているのです。
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